──ドックン──

 暮は現れた女性の顔を認識した途端、心臓が胸から飛び出しそうになったのを感じた。

 ──やっべ……メッチャ俺好みだ……。

 やけに驚いた顔をしたことを不審に思ったのだろう、女性が首を(かし)げたので慌てて問い掛けたが、暮の声はいやにうわずっていた。

「し、失礼ですが、モモとはどういう……?」

「あ、すみません。モモが以前育った施設の、園長の娘に当たります。モモは身寄りがありませんでしたので、母が養子縁組をして、それで同じ苗字でして……私、早野 茉柚子と申します」

 ──な、なるほど……モモのお母さんにしては若過ぎると思った。

 暮は「モモの母親発見!?」という大スクープでなかったことには失望したが、自分好みのこの女性が、独身である確率を高めたことを知り、心の中でガッツポーズをした。

「申し訳ありません。モモは只今来客中でして……(ことず)けがありましたら(うかが)いますが」

「そうですか。でしたら、これをモモに渡していただけませんか? 借りたまま返しそびれていまして」

 そう言って差し出されたのは掌程度の平たい紙包みだった。手に取ると柔らかい。中身は布か何かのように思われた。

(うけたまわ)りました」

「ありがとうございます。それでは──」

「あっ! あのっ」

「え?」

 (きびす)を返した茉柚子の背中に、暮は思い切って声を掛けていた──。