『だぁれが、モモなんて、あんなガキ相手にするか』



 その時ふと思い出した。

 夏の、杏奈がやって来た前夜の凪徒の言葉。

 途端チクチクと痛み出す、胸の奥底。

「と、とにかく、劇団に移行する話はもう少し良く考えさせて……あたし、今、頭の中がこんがらがっちゃってて……」

 ──幾ら考えたって、受け入れる道は一つしかないのに……。

 モモは再び延ばし延ばしにするだけの答えを吐き出して、ぬるくなった紅茶を飲み干した。

 自分を育ててくれた施設──ないがしろになんて出来る訳がない。

「クライアントは僕達に一ヶ月の猶予をくれた。数日前の話だから、あと四週間近く時間がある。それまでにゆっくり考えて。良い返事、“みんな”で待ってるよ」

「うん……」

 洸騎はモモの辛そうな表情にいたたまれなくなったのか、自分から席を立った。

 釣られて立ち上がったモモをサーカスの入口まで送り、独り帰ってゆく寒そうに丸められた洸騎の背中を、モモは見えなくなるまで見つめていた──。