「うちの鈴原ね、あれで結構、そういうところがあったの」

「鈴原お兄さんが!?」

 「ふふふ」と屈託のない笑みで答える夫人。

 モモは大きな瞳を更に見開いた。

「随分頑張ったんじゃないかしら。モモちゃんも気付いている通り、実際はそういうタイプじゃないでしょ? 誰に吹き込まれたのか知らないけれど、なかなか積極的だったのよ。その勢いにほだされたつもりはないけれど、いつの間にか彼のこと、好きになってたわ……でね、プロポーズの言葉は何だったと思う?」

 あのどちらかと言えば言葉数の少ない、温和で優しい笑顔のお兄さんが!? とモモは目を丸くして「分かりません」とかぶりを振り、夫人の次の言葉を待った。

「『僕は、猛獣です! サーカスの猛獣には猛獣使いが必要だ! 貴女が僕の猛獣使いになってください!!』……ですって」

「えー!?」

 思わず大きな声で驚いてしまった。

 鈴原の真似をするように、出来るだけ低い声で答えを出した夫人の言い方も明らかに滑稽(こっけい)さを誇張していたが、いやそれにも増して、その内容が鈴原らしくなくて余りにも可笑(おか)しかったのだ。

「笑っちゃうでしょ? でも頑張って真面目な顔してそんなことを言ってくれたこと、本当に嬉しかったわ。それで結婚を決めたのよ。本当はもう少し空中ブランコをしていたかったけれど」