「ごめんなさいね、貧血気味なのかしら……最近ちょっと調子が悪くて……」

「いえ、そんな時にすみません……あの、今日はこの辺で……」

 カーテンの向こうから蒼白い顔で現れた夫人へ、慌てて退席の意を口にしたが、夫人は「大丈夫だから、もう少しいてちょうだい」と、二人は再び元の席に収まった。

「ね……あんまり思い出したくないと思うけれど……モモちゃんは、あのプレハブで洸騎君に抱き締められてしまったのよね……?」

「は、はい……」

 夫人は一度紅茶を飲み、その温かみとコタツの熱で、少しだけ顔色を戻して尋ねた。

「洸騎君、ちょっと焦っていたのかもしれないわね……離れていた二年半の間に、モモちゃんに好きな人が出来てしまったんじゃないかって。女性って──今はそうでもないのかもしれないけれど──どちらかと言ったら受け身な存在でしょ? 世の中には『俺について来い』タイプの男性を好きな女性もいるから、男の人って時に勘違いしてしまうのよ。強引に攻めれば、女性もその気になるのではないかって」

「は、ぁ……」

 モモは夫人の会話の中身よりも、その話の間に見せた少女のようなにこやかな微笑みに驚き、不自然な相槌を返していた。