「……うーん……私はモモちゃんの立場になったことがないからハッキリとは言えないけれど。普通の友人関係にあった異性から伝えられるのとは、やっぱり違うのだと思うわ。洸騎君には申し訳なかったと思うけれど、モモちゃんがそうなってしまったのも仕方がないんじゃないかしら」

 真正面の夫人はカップを置いて軽く頬杖を突き、困ったように首を(かし)げた。

 ややあって再び唇を開く。

「十五年、ずっとモモちゃんを見てきたのだものね、好きな気持ちは簡単には消えないかもしれないわ。でも。今度会った時にはちゃんと答えようと思っているのでしょ?」

「はい。水曜日に園長先生を訪ねることになったので、その時には──」

「そぉ、……あ、ごめん……なさいっ、ちょ……と、待ってて──」

 ──夫人?

 夫人は急に腰を上げて、苦しそうに胸を押さえた。

 何とかモモに言葉を繋いで、奥へと駆けていってしまう。

 それから十分は戻ってこなかっただろうか。

 洗面所の手前に掛けられたパーテーション代わりのカーテンのこちら側で、モモはしばらく声を掛けられないまま、心配そうに立ち尽くしていた──。