「あたし、本当は園長先生の補佐として(えん)に就職して、定時制高校に通う筈だったんです。洸騎君も隣町の建設会社に就職が決まりました。でも三年前の冬、卒園祝いにってサーカスを見に行って……」

「それで空中ブランコに魅了された──」

「──はい」

 自分の進む道を大きく変える出来事だった──モモはあの時感じた胸を焦がす程の熱さを思い出した。

「でも卒園した筈の洸騎君は何故未だ施設で暮らしているの?」

 夫人の質問に、モモは少しだけ困ったような顔を見せる。

「元々は就職先の独身寮に入る予定でした。でもあたしが出ていくことになったので、部屋が()いたのと、施設のスタッフは(ほとん)ど女性ですから、男手があった方が良いだろうって、家賃と生活費を入れるという条件で残ったんです。だから洸騎君は施設から職場に通って、お休みの時だけ施設を手伝っているのだと思います」

「そう……」

 そこで(から)になったカップに気付き、夫人は一度席を立った。

 お湯の足されたティーポットをコタツの上に移し、紅茶が出るのを待って再び注ぎ入れた。