暮は「そんなの分かってる!」と言うように口を動かし……番で回ってきた設備点検の確認用紙とボールペンを握り締めていることに気付いて、急いで紙の裏に書き殴った言葉とは──



『ワケはきくな! ただ抱きしめろ!!』



「ええぇ……?」

 その文字を見つめて、あからさまに顔を歪めてしまう──も、「早くしろっ!!」と再び無声で叫んだ暮の気迫に負けて、凪徒は依然目の前でひたすら涙を落とすモモを見下ろした。

 ──どうしよ……涙が……止まらない──。

 ギュッと握り締めていた両手をほどいて顔を覆ったが、モモは泣くのをやめられなかった。

「しょうがねぇなぁ……」

 モモの後頭部が優しく包まれて前方に押し出される。

 額が凪徒のトレーナーに着地して、頭を抱えられたまま、もう片方の凪徒の腕が背中と肩を温めた。

「泣ける時に泣いとけよ」

 ──先輩なら、こんなに心地良いのに……──。

 柔らかな表情で抱き留める凪徒の横顔に安堵し、暮が立ち去った頃。

 モモの涙は嗚咽(おえつ)に変わり、しばらく其処から離れることが出来なかった──。