「こんな所で突っ立ってたら風邪引くぞ」

 凪徒はとうとう待ちくたびれて、モモの左腕を(つか)んで歩みを促した。

 結局引きずられるように扉の中までは入れられてしまったが、モモは「奥まで進むのは嫌だ」という意思を、何とか言葉にしないまま伝えようとした。

「仕方ねぇなぁ……此処でも構わないが、一体何が遭ったんだよ……夕方の面会が原因か?」

 ──ズキン。

 あの時と同じ衝撃が走り、また動けなくなる。

「……モモ? ──!?」

 モモの足下(あしもと)に雨が降り、幾つかの水玉を作った。

 ──止め()なく(こぼ)れ落ちる、大粒の涙。

「えっ……と──?」

 先に慌て出したのは凪徒の方だった。

 モモはどんなに説教を受けても泣いたことなどなかったし、幾らデコピンを喰らっても、大きな瞳に涙を溜めて潤ませるくらいしか見せたことがなかったのだから──。

 ──どうしちゃったんだよ、こいつ──?

 声も掛けられずただ呆然と立ち尽くし、首の後ろをこすり出した凪徒は、ふと扉の向こうに「揺れ動く何か」と「視線」を感じ目を()らした──気付けとばかりに「手を振り」「凝視」する暮。

 ──お、俺じゃないっ、俺じゃ!

 凪徒はモモの泣いている理由は自分でないと、必死に理解を求めるよう手を縦にして暮に振った。