その夜の貸切公演で、モモは失敗こそしなかったが、完璧な演舞には程遠かった。

 あの走り去った後のことは、自分でも良く覚えていない。

 団長室を訪れることもなく、確か自分の布団に閉じ籠もっていた。

 ショーが始まるギリギリに誰かに呼び起されるまで、気を失ったように眠っていた。

「モモ……分かってるな?」

「……」

 厳しく(さと)す凪徒の声に無言で(うなず)いたモモは、閉幕したテントから高い背の後ろをトボトボとついて行った。

 重い足取りは徐々に酷くなり、気付けば建物の手前十メートルで止まっていた。

 会議用プレハブ。数時間前に洸騎に抱き締められた場所──嫌だ……入りたくない──。

「モモ?」

 凪徒は入口を半分開いてモモが再び歩き出すのを待ったが、一向に来る気配がないので仕方なく来た道を戻った。

 深く(うつむ)くモモの前に立ったが、彼女が顔を上げることも、何かを話すことも、足を進める様子もなかった。

「どうした? 何か()ったのか?」

 上からの質問にただ首を振る。

 暮には見られてしまったが、凪徒には絶対に知られたくないと思ったのだ。