「椿様……そこの白洲穂波は自分の母親を刺し殺そうとした疑惑のある、不気味な女です。都姫に非があったかもしれなくとも、その女を選ぶ理由がどこにあるのですか? 考え直してください!」

 藤堂家で、都姫の義姉にあたる女性が椿に反論する。せっかくの氷宮家当主との縁談が、本家の人間から、一族の中でも格下ではみ出し者である白洲家の次女に入れ替わる。藤堂家の人間からしたら大きな損失だった。都姫が駄目ならせめて他の人間を、そんな意図が込められている反論だ。

「選ぶ理由なんて一つしかない。俺が、彼女を愛しているからだ」
「なっ……」

 なんてことのないように大胆な告白をする椿に、自分が言われたわけでもないのに、その場の女性たちは動揺してしまう。

「穂波さんには、こんな一族の当主争いは似合わない。この家の当主なんか目指すよりも、氷宮の嫁として生きた方が幸せになれることを俺が証明する」

 穂波の手首を握る、椿の手の力が、ぐっと強くなる。