ここまで聞いて都姫は、ああ、この男は自分を脅そうとしているのだと気づいた。そして厳しい条件を突きつけてくることは、椿のようなすぐに未来を読み取る力がなくとも簡単に予測できた。

「俺との婚約は破談、二度と彼女に……穂波さんに危害を与えないと誓え」
「っ……!」

 椿の表情からすっと笑みが消え、纏う雰囲気が強く、圧迫感のあるものに変わる。その表情、語気、全てに、都姫だけでなく、その場に居た人間たち皆が圧倒された。

 何か言い返したり踏み込めば、恐ろしいことが起きそうな……針山の上に敷かれた、脆い氷の床を歩かされているような、恐怖と不安を感じる。

「この場でどうするかは答えなくても良い。今後の行動で答えてくれれば結構だ」
「……」

 何も言い返さない都姫を見て、まさか本当に都姫様がやったのか……?と、皆がまたひそひそと顔を合わせ始めた。

「話し合いの邪魔をしてすまない。俺が伝えたかったことは以上だ」

 さっきまで椿を止めようとしていた時隆の秘書も、すっかり度肝を抜かれてしまったようで、これ以上何か言ってくる様子もなかった。都姫を悪魔や幽霊でも見たような、ぎこちない表情で見ているだけだ。