もう二度と千代を傷つけさせない。だからって都姫に降伏し、彼女から逃げることもしない。正面から向き合うと決めたのだ。

 ふわりと花びらが舞うような柔らかい笑みを口元に浮かべ、椿は首を横に振った。

「あんたは最初から別に逃げてなんかいない。堪えることを戦う手段に選んできたんだと思う」

 自分の中の、何があっても泣かないようにするという決まり事を穂波は見破られたようで驚いた。

 白洲家で会った時から椿は人の感情や、思考の傾向を読む力に長けていると思っていたが……冷徹な表情の下に優しい感情を持っているからだと、穂波もまた彼について理解し始めていた。

「けどこれからは俺があんたの代わりに戦う」
「椿さん……」
「以前少し話したが、俺は運命の鍵に……あんたに返しきれない恩があるんだ。ずっとあんたを探し……また会えたら、必ず力になりたいと思って生きてきた」

 椿と共に居る時間はまだ短いが、穂波は彼の声や言葉を聞くと泣きたくなってくる。今まで堪えてきたものが簡単に溢れそうになる。

 諦めだけの人生だと思っていたのに、自分の知らないところで自分を探し、こんなにも想ってくれている人が居た。考えもしていなかった。

「穂波さんは、俺の後ろに居ろ」

 穂波のまた溢れそうになる涙にそっと指をそえ、熱を帯びた頬に触れると、椿はそう告げた。

「あんたに降りかかる悲しいことも辛いことも、全て俺が消し去ってやる」

 二人の反撃の時が、訪れようとしていた。