昨日の口髭の警官は誤認逮捕の処罰を受けるらしく、ざまあみろ、態度だけでかい能無し野郎と警官は嬉しそうに言った。

 自分の疑いは晴れ、澄人が犯人でもなかった。喜びたいところだが澄人が嘘を吐いたことは未だ釈然とせず、しこりのように残っていた。

 穂波の様子を見てその想いに勘づいたのか警官は金だ、と呟いた。

「お金?」
「そう。あんたがやったって言った……澄人っつう配達屋。懐からたんまり金が出てきた。嘘の証言をするよう掴まされたと見てる」
「そんな……」

 あいつもしょっぴく予定と、警官は灰皿に煙草を押し付けた。

「あんた、あの配達屋と仲良かったらしいな。そんな気にしてるってことは……好きだったとか?」
「……」
「悲しいねぇ、金に負けちまったか」

 ははっと、警官は他人事のように笑い飛ばした。確かに澄人の家は裕福とは言えなかった。弟や妹たちを養うために頑張って働いていた。

 膝の上で丸めた拳が、小さく震える。警官の言ってることは本当のことなのに、その言葉に耳を塞ぎたくなる。

「刺された女中のことも話すか? あの女中は」
「おい。もうお前は話すな、路夜(みちや)

 警官の背後にあった扉が開くと、そこにはこの場に到底似つかわしくない男性が立っていた。路夜と呼ばれた警官は、男性の顔を見ると親しげに、よっと手を挙げた。

「予定より早かったな。珍しく、少し息があがってんじゃ……」
「うるさい」

 穂波は男の顔を見て、驚きのあまり声をあげた。六条椿。最近、時隆の思念の中にも現れた彼が、目の前に現れたからだ。

「椿さん……なんでここに……」

 椿は、路夜の横を通り過ぎると穂波のその震える手をとった。

「助けに来た」