今日はここまでだと、警官は苛立たしげに机にガンッと拳を振り上げると、大きく舌打ちをした。来い!と、穂波に怒鳴りつけると乱暴に手錠を引っ張り立たせた。

 連れて行かれたのは便所とむしろしかない、壁も床も木板でできている留置所だった。電気なんてなく、下水道のような臭いがする真っ暗な留置所は穂波の気持ちをさらに追い込めた。

 警官が居なくなり、糸が切れたようにむしろに倒れた穂波は両手で顔を覆った。

 こんな環境に押し込んで、弱らせていくのが警察の狙いなのだろうか。やっていなくてもいつか解放されたいがために、無い罪を認めてしまう人は居るだろうなと思った。

(……澄人。澄人が千代を刺したの?)

 だが穂波は逃げるわけにはいかなかった。千代は、侍女を超えた信頼関係で結ばれている大切な友人だ。そんな千代を傷つけるわけがない。本当の犯人を絶対に見つける。

 だが自分がやっていない今、一番疑わしいのは澄人になってしまうのだ。たまたまあの場に居て、穂波がやったと嘘をついているのだから。

(もし澄人ならどうして……)