「おい、まだ話す気にはならんのか?」
「……」

 警察署に連れていかれ……取調室に通されてからもう数時間も経つ。町中にも異国の建築デザインの建物が増えてきているが、この二階建ての警察署は未だ瓦屋根で、こじんまりした様子で建っていた。

 薄暗い切れかけの白熱電球が、穂波と警官の上で時折ばちばちと音を立てる。五畳ほどの狭い部屋で木製の机を挟み、穂波と警官は向かい合って座っていた。

 澄人が現場を見たことによる現行犯逮捕という扱いになり、穂波は拒否することもできず強制的な取り調べを受けることになった。

「黙っていても変わらんぞ。早く、自分がしたことを話し方が楽になる」

 最初こそ自分はやっていない、目が覚めたら千代が倒れていたと何度も説明していた。ところが口髭の警官は聞く耳をもたず、穂波に自白させようと捲し立て続けた。

 知らないものは本当に知らない。まして千代を刺すなんて有り得ないことなのだから、穂波に話せることはこれ以上なかった。