「彼女が、そこの女中を刺したのを見たのだな」

 黒い口髭をたくわえた警官が尋ねると、澄人は頷いてみせた。穂波はその様子を見て、指先から心まで一気に冷たくなるような恐怖を覚えた。

「彼女が……この家の、白洲穂波様が刺しました」

 澄人はそう言って、穂波の見たこともない感情を宿さない表情で頷いたのであった。嘘だ。いくら時隆の思念のせいで自由を奪われていたとしても、自分が千代を刺すわけがない。

「私はやっていない!」

 穂波が言い返すと、こつこつと廊下を歩く音が聞こえてきた。

「何よ、朝から騒がしいわね」

 眠たそうに目をこすりながら現れた蓮華は、倒れた千代や警官を見るとみるみる顔色を変えて震え始めた。

「血!? ひっ……!」

 その場で腰を抜かすと、いやあああああと叫び始めた。冬緒と君枝たちがなんだなんだと駆けつけてくる。