『時隆さん、あんた、何を考えている?』
『……椿』
時隆の思念の中に、椿が出てきたのだ。穂波は声を出すことは思念を見ている間はできないが、叫び出しそうなほど驚いた。
部屋の入り口で腕を組んだ椿が、時隆を鋭い眼光で睨みつけている。時隆は立ち上がる様子もなく、机の前で変わらず正座しながら、椿へと顔だけ向けている。
『椿ぐらいだ。無理矢理、俺の自室まで乗り込んでくるのは』
『あんたが取り合ってくれないから強行手段を取らせてもらったんだ』
見間違うわけがない。あの日に白洲家を訪ねてきた椿と、身に纏っている着物も同じだ。椿は時隆と知り合いだったのか?
『悪いね。最近、忙しくて』
『違うだろ。藤堂家の人間たちから聞いた。部屋にこもりがちであんたの様子がおかしいと。ずっと何かを書いてるそうだな?』
『……皆そんな風に思っているのなら、直接言ってくれれば良いのに。今初めて知った』
時隆はへにゃりと、困ったように顔を緩めながら椿に笑いかけた。歳は離れており、時隆の方が上だが旧知の友人のように見える。随分と親しげな様子だ。
『で、椿が俺に話したかったことってなんだっけ』
『ああ……例の婚約の件だが、一つだけ条件がある』
『椿の条件って、ろくな条件じゃなさそうだな』
