千代は、穂波への周囲の態度が変わっても、今までと変わることはなかった。どんな状況でも変わらず自分と接してくれる千代は、穂波にとって何にも変えられない唯一の存在だ。

「今後は全員通さず、穂波様や状況も整理しながら案内しますね!」
「ありがとうね。千代がそばにいてくれて心強い」

 穂波に褒められた千代は、えっへんと腰に手を当てて誇らしげにしている。

 特に今日は、こうして千代と話して気を紛らわせないと気分が落ち込んでしまいそうだった。思念を読み取るうちに、時隆がこの家についてどんな想いを抱いていたのか。死ぬ前に何を思っていたのか。わかってきてしまったからだ。




『俺は、あの人を奪ったこの家が……藤堂家が憎い』




 こんな一族から、逃げられるものなら逃げたいと、思念の中の時隆は泣いていたからだ。

 何をやっても完璧で、一族の誰もが崇拝する当主が、自分と同じような感情を抱いていたなんて……穂波は、ただただ驚くしかなかった。

 視えた思念の内容はありのまま伝えたが、誰もが言葉を失くしていた。この機会がなければ皆、時隆の気持ちを知ることがなかったなんて皮肉なことだ。

 時隆の言う『あの人』とは一体誰のことなのか? いつも飄々として、自由に空を泳ぐ雲のような彼が……感情を漏らし涙していたのだ。とても大切な存在だったに違いまいと穂波は思った。