「穂波様! またお客様です!」

 千代がこうして部屋の障子を開けてくるのは今日何回目になるだろうか。

 藤堂家の集まりに参加し都姫と再会したあの日から二週間経ったが、穂波への客は毎日ひっきりなしに訪れた。時隆に関する物を、持ち込んできて、穂波に読み取ってほしいという依頼だ。

「穂波殿、自分は、序列三十九位・藤堂銀太(とうどうぎんた)と申します! 突然押しかけてしまいすみません!」
「い、いえ」

 客室には穂波よりも二回りほど歳が上に見える、上質そうな藍色の着物を纏った恰幅の良い男性がどっしりソファに腰掛けていた。くりっとした黒豆のような瞳が、嬉々としながら穂波をとらえている。

 本来なら穂波に情報が集まってしまうので、協力なんてもちろん求めない方が良いが……馬鹿正直にあの場で時隆の意思を伝えた穂波は、当主の座に固執していないだろうと判断された。穂波に頼るべく、次々と序列候補者たちが助けを求めてくるようになったのだ。

 まさか本家の人間が一族のはみだし者である自分を頼りにきてくれる日がくるとは、思いもしてなかった。