都姫は無言で穂波に近づくと、何も言わずに頬をはたいた。突然の強い衝撃に、何が起きたわからない様子で穂波は頬をおさえるが、さらに都姫は髪を掴みにかかり、ずっとあの家も、家族も憎んでたんだよ!と、怒鳴りつけた。

「誰があんな家に産んでって頼んだ? 私の念力がもったいないじゃない……本家の人間だってねじ伏せられる選ばれた力なんだよ!」

 昔から都姫の力ばかり、評価されてきたから穂波はその力について痛いほど知っている。

「私には神様がついてる。あんただってよく知ってるでしょう? どうしたら上手くいくか、なんだって見通せるの!」

 都姫の念力は、神託を受ける力だ。百発百中で当たる占いのような力だと、よく周囲に説明していた。

 勉強も習い事も、友人関係も恋愛も、この力のおかげで上手くいく。都姫の力を求めて、国内の権力者たちが相談に来ることもよくあった。そんな都姫は、穂波にとって眩しすぎる存在だった。

 この力があるからこそ、今回も都姫にはどうしたら藤堂家の当主になれるのか……その攻略法がわかっていた。

「引かないって言うんなら、こっちにも考えがあるから」

 今、都姫と別れる決断をしていれば、穂波の運命は大きく変わっていた。穂波は、違う未来があったのかもしれないと、この時を何度も思い返すこととなる。