蓮華は穂波の言葉に聞く耳をもたず、冬緒と合流するとそのまま家を後にしてしまった。

 椿に励まされたあの日から、穂波は蓮華からの嫌がらせになるべく抵抗するようになった。言いなりになるのをやめ、蓮華からの命令を聞かない時もあった。

 三年間言いなりだった穂波が変わっていく姿を見て、蓮華たちは酷く驚いた。それと同時にあの日訪れた六条椿の影響のせいに違いまいと、嫌でも彼の影を穂波に見出した。彼らの苛立ちと焦燥は、日々積もる一方であった。

「穂波様。最近、変わられましたね。千代は日々、ご立派になられていく穂波様の姿に励まされておりますっ!」

 にこにこと頬を緩ませながら、目尻の涙をハンカチでおさえる千代に、穂波は大袈裟よと笑った。

「もちろん、行かれるということですよね。藤堂家に」
「ええ、行くわ。私にだって、今日の話し合いに参加する権利はあるから」

 序列が百位だろうが、時隆からの手紙をもらっているのだから。

 千代は力強く頷くと、すぐに支度をしましょうと穂波を化粧台の前に連れて行った。

 蓮華たちに置いて行かれても、自分で行けば良い。今まで見えなかった選択肢は、まるで朝の浜辺に光る貝殻のように、穂波の前できらきらと輝き始めていた。