椿の言葉に、穂波は黙って頷いた。

 これまでの三年間、白洲の家族たちは徹底的に穂波を囲ってきた。穂波を自由に操る為、余計な交友関係を持たせないよう、閉じ込めこきつかってきたのだ。

「穂波さんはそれで良いのか? あの家族に自由を奪われたままで。あんたに対するあの態度は普通じゃない」
「それは……」

 本当は、自由になりたい。毎日、自分の選択肢を持ちたい。

 しかし、自由になるための最初の選択肢を放棄してしまっているのは自分自身だと、穂波は自覚していた。

「……!」

 椿は、穂波の手がかたかたと震えていることに気づいた。

 穂波は震えている自分の手をもう片方の手で握ると、ゆっくりと深く息を吐いた。

「勇気が、持てないんです……本当はこの一族から離れて、逃げたいぐらい。でもあの人たちに逆らう勇気も、逃げる勇気も、私にはありません」

 姉の蓮華と母の君枝から、何度も嫌がらせを受けてきた。それは自分に対するものだけではない。千代を傷つけられたこともあった。

 その時のことを思い返すとどうしてもみじろぎしてしまうのだ。この先千代や澄人が傷つけられることがもしもあったら、耐えられないかもしれない。