「わあ……綺麗な方」
「どこの方だろう」

 町行く人たちは、椿と通り過ぎれば振り返り、ひそひそとその美貌や身分について口々に噂立てた。

 ただ歩いているだけで、名家の出だと全身から伝わってくる。

 最初に氷宮家の分家である、六条家の出だと聞いた時は、藤堂家にとっての白洲家のような立ち位置だと思っていたが……椿は容姿も振る舞いも本物の御曹司であり、白洲家なんかとは比べ物にならないと思った。

「悪いな。突然押しかけて、連れ出してしまい」

 町の外に出るとすぐに、椿はさっと穂波の手を離した。まだ椿に握られた手の温もりが残っていて、どきどきと胸が高鳴ってしまう。男性と話す機会は日頃、澄人としかなく、免疫がないのだ。

 同じ男性でも澄人から与えられる、優しくてあたたかな感情と、椿から与えられる揺さぶられるような感情は全くの別物だと穂波は思った。

「いえ、でも私は町の案内役としては適任ではなかったと思います。日頃あまり外に出向かないもので」
「外に出るのを止められそうになっていたな。時隆さんが亡くなられたのだから招集もあったろうに、あんたは家に居た。自由に家の出入りもさせてもらえてないのか?」