『あれが複写の念力の……』
『だが、当の本人は腑抜けらしい。何を言われても言い返さんで、やられっぱなしなんだそうだ』
『あの怪我もそれで?』

 自分の噂をする声が聞こえても、時隆は顔色ひとつ変えず、聞き流すだけだった。その態度が逆に周りの反感を煽り、時には手を出されることもあった。

 それは時隆が生まれた時から過ごしてきた分家の屋敷でも、新しく招き入れられたこの本家でも変わらなかった。

『噂通りだな、殴られても上の空だ』

 本家の屋敷に住み始めてからひと月ほどたった日、時隆は同じ年頃の一族の人間たちに呼び出された。裏庭の木下で、何を言うわけでもなく、何をしたわけでもないのに暴力を振るわれた。

 特に驚きはなかった。屋敷に来た時からずっとこそこそと陰口を叩いたり、様子を伺ってきていたのはわかっていたからだ。

『気味の悪い奴だ』
『本当はさ、時隆って弱いんじゃないかしら? 悟られないようにこういう態度をしてるのかも』

 くすくすと、自分を取り囲んで笑う連中を見ながら、時隆は早く部屋に帰って読みかけの本を読みたいと思っていた。

『本当に弱いのは、こうしてつるまないと時隆と面と向かって話すこともできないお前たちではないか?』
『や、八潮様……』

 だが本家に来てから一つだけ変わったことがある。必ず、八潮が助けに来てくれることだった。