穂波は目を瞑ると、握っている時隆の手に意識を集中させた。たまに、意図しない思念を読み取ってしまうこともあるが、経験を積むほど、読みたい過去を的確に掴めるようになってきた。

 先程、都姫から聞かされた時隆の過去について想像しながら、穂波は念力を発動した。






 藤堂本家の門の前で、それこそ怜と同じぐらいの年頃だろうか。まだ幼い時隆が、番傘をさしながら立っていた。学生服の上にマントを羽織っている。頬には白い綿布が貼られており、微かに血が滲んでいた。怪我をしているようだ。

『君が時隆か! 噂には聞いていた』

 細い雨がさーさーと降る、この静かな昼下がりに似つかわしくない男が、門の奥から大きな下駄音を立て走ってきた。

 背が高く、肩幅もがっちりとしている。着崩した着物の胸元は大きくはだけており、鍛え上げられた身体がよくわかる。羽織の裏地は花柄と、豪快で、派手な見た目をした男だった。

『あなたは……』
『藤堂八潮。来月から正式に、藤堂家の当主となる者だ』

 八潮に差し出された大きな手を、時隆は恐る恐る握り返す。

『俺が、君の世話役をする。なんでも遠慮なく聞いてくれ』
『当主様がわざわざ世話役ですか?』
『うむ、君の噂はよく聞いてる。稀有なその念力で苦労をしてきたことも』
『……』