穂波は、椎菜のベッドの横にぐったりと投げ出された手にかんざしを握らせた。途端、ずっと人形のように無機質だった椎菜の瞳から、はらりと一筋の涙が流れたのだった。

「仕事の為に、籍を入れるよう仕組んだから……太一さんのこと、最初は好きじゃなかった。だから結婚指輪も断ったのに……一緒に過ごしていくうちに、太一さんを好きになってしまった」
「椎菜……」
「結婚してから一年経ってこのかんざしをもらえた時は、本当に嬉しかった……かんざしに入ってる宝石、最初に断った時の指輪の宝石でしょう」
「気づいていたのか……」
「うん……指輪を受け取らなかったことに、ずっと後悔と、申し訳ない気持ちを抱えていたの。それでも太一さんは、私が拒んでも、何度でも形を変えて愛を伝えてくれた」

 うまく別れられなくなるから、こんなこと言うつもりじゃなかったのにと、椎菜は空いたもう片方の手で目を覆った。

「私と居ると、太一さんがまた危険な目に遭うかもしれない……だから離れた方が良い」