「私、触れた物から過去の記憶を読み取れるんです」
「……あなたも念力の使い手なんですね」
「はい。記憶の中の椎菜さんは、極力、外出しないようにしていました。あなたの仕事は、政府が秘密裏に回したい情報の中継地点のような仕事だからです」

 それが今回、男たちに狙われたあの巻物だ。秘密裏に情報の受け渡しを行う仕事には、極力、外に出ない専業主婦の仮面をつけることが打ってつけだったのだ。

「街に出るとしても地味な着物を着て、いつも外見の特徴を変えていました。なるべく人との関わりを持たないようにするためですよね。いつか別の場所で仕事をする際、他所で残った印象や情報が邪魔をすることがありますから」

 これは依頼人の家を出る前。椎菜の部屋で彼女の持ち物に触れて集めた情報だ。着物や化粧道具から、彼女の思念を読み取った。

 ずっと無機質な様子だった椎菜の口元が、初めてひくりと歪んだ。彼女の思念から読み取ったことを伝えているため、当然、図星なのだ。

「そんなに徹底していたあなたが、太一さんからもらったかんざしを持ち歩くのは不都合しかありません。しかも、こんな宝石のあしらわれた立派なかんざし……自分を特徴づけてしまう物を、わざわざ身につけてしまうことになる」
「……」
「それでも、持ち歩きたかったんですよね。あなたは太一さんのことが大好きだから」