「……う、っ」
「椎菜!?」

 ベッドで仰向けになって寝ている椎菜が、少し息苦しそうな声をあげる。薄く開かれた目が依頼人をぼんやり見つめる。

「太一、さん」
「椎菜!」
「ごめんなさい……太一さんを巻き込んでしまった」

 椎菜は、思念で視た時と印象が違った。思念の中の彼女は表情豊かで、依頼人に見せる表情や仕草は少女のようだとも思った。

「もう気づかれてしまったと思うけど……全て嘘なの、私は本当は椎菜じゃない……」

 しかし今、目の前で話す彼女は、表情、声、話す様子など見ても、全く違う人間のように感じられた。

 冷静とはまた違う。無機質、という言葉が近い。感情や特徴が見えないような話し方をするのだ。

「私は鷹泉の、諜報部の人間です……太一さんに近づいて籍を入れたのも仕事を円滑にする為でした」

 あらかじめ椿から聞いて、覚悟はできていたはずだ。それでも依頼人の喉奥はひゅっと唸り、気丈に振る舞おうとしつつも動揺が見え隠れしている。

「今回、私が狙われたのもこの仕事のせいなんです……巻き込んでしまって本当にごめんなさい」

 それから椎菜は、最も依頼人にとって残酷な言葉を告げた。

「太一さん……私のことは、どうか全て忘れてください」