涼葉と共に階段を上がり、椎菜が運び込まれた病室に向かった。病室に入ると横になる彼女を、ベッド脇の椅子に座った依頼人が心配そうに見下ろしていた。彼女の手を祈るようにぎゅっと握っている。

「穂波様、大丈夫ですか? いらっしゃらないので心配しておりました」
「すみません……杖を落として困っている方が居たので手を貸してました」
「そうでしたか。周りによく気がいっておりますね、さすがでございます」

 花森に褒められ、心が痛くなる。今言ったことは半分本当で半分嘘だから。

「椎菜さんですが、命に別状はないとのこと。睡眠薬を嗅がされていたようで、今は意識が混濁としておりますが直に目が覚めるとお医者様が言っておりました。この後も診察に来てくれるそうです」
「皆さんのおかげです。ありがとうございます……なんてお礼をしたら良いか」

 依頼人は立ち上がると穂波と涼葉の前に立ち、深く礼をした。地面に頭がつくんじゃないかというぐらいに。

「やっぱり氷宮家ってすごいんですね……妻が居なくなったことを相談したら警察には対応できないと断られて……代わりに紹介してもらったんです。あなたたちが来てくれなかったら今頃、どうなってたか……っ」

 昔、穂波も聞いたことがあった。警察組織を司る鷹泉が取り合ってくれない厄介ごとを、氷宮家は押し付けられてる何でも屋なのだと。

 藤堂一族は他人事のように話していたが、今なら穂波にはわかる。氷宮家がやっていることの価値を。