「怜ー! 帰ろ……って、あら? あなたは……」

 時隆が言いかけた時、背後から怜の母親が話しかけてきた。

「ちょっと穂波さん。いつまで下に居るのよ……って誰? 何話してんの?」

 涼葉も上の階から、なかなかやってこない穂波を見かねて降りてきたようだ。ここまでだねと言いたげな顔で、時隆は首を横に振った。

「助けてもらったんだ。杖を落としてしまって」
「あら、そうだったの」

 怜の母は穂波に、どうもありがとうございますと会釈すると、病院の入り口の扉を開けた。

「じゃあね」
「……」

 穂波に手を振ると、時隆は扉に向かって、また松葉杖をついて歩き始めた。声には出さなかったがその口元は、また会いに行くよと告げているように見えた。

 穂波としてもこのままでは終われない。時隆が死んだ日に何があったのか、突き止める必要がある。

 それは藤堂一族のためでも、都姫のためでもない。穂波自身の未来を掴むためだ。

「ねえ、穂波さん! あの子誰? ちょっと好みかも」

 私より少し年下そうだよね、不思議な魅力がある子だなあと、涼葉は顎に手を当て考えた素振りを見せている。

「あ……えっと、あの子は」

 どう説明しようかなあと穂波は頭を悩ませた。そして姿形は変わっても時隆は、やはり人を魅了する。花びらを攫っていってしまう嵐のよう、たったの一瞬でいとも簡単に。

(やっぱり時隆様は、魔性の人だわ)

 怜として蘇って、彼は何をするつもりなのか。この依頼が落ち着いたら、必ずや時隆の元に行こうと心に決めた。