「この格好に深い意味はありません。昔から身の回りのことは自分でやるよう教えられてきました。家事をするのが好きなんです」
「なるほど……格好だけじゃなく趣向も相当変わってるらしい」
「……」

 どうして初めて会った人にこんな物言いをされなきゃならないのか。緊張とほんの少しざわつく気持ちを抑えつつ、穂波は口角を持ち上げ続けた。

「ああ、申し遅れたな。俺は六条椿(ろくじょうつばき)

 椿は穂波に、自分の名前が書かれた名刺を手渡してきた。慌てて穂波は名刺を受け取る。

「藤堂一族の人間に、わけあって探している者が居て……藤堂の家系を回らせてもらっている」

 六条……氷宮家の分家。藤堂一族における白洲家と同じ立ち位置の家だ。穂波もその名は知っていた。名刺に押された六条の家紋の箔は恐らく本物だ。

 そんな六条家の人間が人探しとは、どういった目的なのだろう。