「急ぐぞ。すぐに支度を」
「はい!」

 ばたばたと駆け足で、依頼人が出かける支度をするのを見守りながら、穂波は椎菜の部屋を見つめた。

「穂波さん? どうしたんだ、廊下の方を見て」
「あ、いえ……ちょっと、もう一度だけ椎菜さんの部屋を見てきます」

 椎菜の部屋でかんざしに触れた時に視えた、あの嬉しそうな表情が忘れられない。本当に仕事の都合だけだったのか? 穂波にはそうは思えなかった。

 だからもう一度、彼女の部屋に行って確かめたいと思ったのだ。