潜伏場所のばれた諜報部員が、おめおめとその場に戻るなんて有り得ない。彼の言う通りだ。

「今から椎菜さんと、盗まれた物を取り返しに行く。彼女が隠していたからには重要機密だったに違いない」
「応援は呼ばれますか?」
「いや、視たところ敵は多くなかった。俺たちだけで十分だ」

 かしこまりましたと花森が礼をすると、椿は依頼人にまた向き直った。

「依頼人。ここからは恐らく、念力を使う集団との交戦になる。危険な場だ。それでもついてくるか?」
「! そ、それは」
「もしかしたら彼女と会える最後の時間かもしれない。どうしたいか、依頼人が選んでくれ」

 依頼人は小さく震える拳を握り締めながら、下を向いて考え込んでいた。やがて顔をあげると力強い表情で、行きますと頷いた。

「もう一度彼女に会いたいです。お願いします、どうか僕を連れて行ってください」

 椿は了解したと頷いた。さっきよりも依頼人の表情は落ち着いてきている。選択肢を与えられ、少しだけ整理ができたからだろう。

(椿さん、かっこいいな……)

 ただ請け負った依頼をこなすのではなく、椿は依頼人にとって本当に大切な物が何かを考えている。