『椎菜に贈りたい物があるんだ』
『私に?』
依頼人の妻の名前は、椎菜だ。思念の中に出てきた女性と、事前に聞いていた情報が一致した。依頼人の男は、妻の椎菜にかんざしを渡した。つるりと光を帯びた丸い宝石が埋め込まれた、黒い漆塗りのかんざしだ。
繊細な蒔絵があしらわれている、この上等なかんざしが化粧台の上にぽつりと置いてあったこと。そのことに穂波は違和感を持っていた。
『なんて素敵なかんざしなんでしょう』
『結婚一年目の記念に。毎日僕を支えてくれる君へのささやかなお礼』
照れ臭そうに依頼人は後ろ頭をかきながら、椎名の顔色を伺っている。椎菜は驚きのあまり見開いた目を、次にはきゅっと細めて満面の笑顔で頷いた。
『太一さん……ありがとう。ずっと、ずっと大切にします』
それから椎菜は、普段どこに行く時もこのかんざしを持ち歩いていたようだ。ぱらぱらと小さな日常の記憶の残滓に流される。
『……誰? 誰か居るの?』
そして辿り着いたのは、恐らく、椎菜がこのかんざしに触れていた時の最後の記憶だ。
愛しそうにかんざしを手に取り、今日もまたつけようと眺めていた椎菜が、大きな物音に顔色を変える。かんざしを台に置いて、部屋の扉から少し顔を覗かせて廊下を見る。
『!? なっ、なに!』
『私に?』
依頼人の妻の名前は、椎菜だ。思念の中に出てきた女性と、事前に聞いていた情報が一致した。依頼人の男は、妻の椎菜にかんざしを渡した。つるりと光を帯びた丸い宝石が埋め込まれた、黒い漆塗りのかんざしだ。
繊細な蒔絵があしらわれている、この上等なかんざしが化粧台の上にぽつりと置いてあったこと。そのことに穂波は違和感を持っていた。
『なんて素敵なかんざしなんでしょう』
『結婚一年目の記念に。毎日僕を支えてくれる君へのささやかなお礼』
照れ臭そうに依頼人は後ろ頭をかきながら、椎名の顔色を伺っている。椎菜は驚きのあまり見開いた目を、次にはきゅっと細めて満面の笑顔で頷いた。
『太一さん……ありがとう。ずっと、ずっと大切にします』
それから椎菜は、普段どこに行く時もこのかんざしを持ち歩いていたようだ。ぱらぱらと小さな日常の記憶の残滓に流される。
『……誰? 誰か居るの?』
そして辿り着いたのは、恐らく、椎菜がこのかんざしに触れていた時の最後の記憶だ。
愛しそうにかんざしを手に取り、今日もまたつけようと眺めていた椎菜が、大きな物音に顔色を変える。かんざしを台に置いて、部屋の扉から少し顔を覗かせて廊下を見る。
『!? なっ、なに!』
