穂波が掃除を始めてから二時間後。千代は、整然と光り輝く書庫に腰を抜かせた。磨き上げられた床、まとめあげられた本と書類には埃一つついていない。

「いつ見ても穂波様のお掃除術には感心します!」

 きらきら目を輝かせて千代が感激してる中、穂波は本当は、ただ得意なわけじゃないんだよなと気まずい思いになる。

「ごみをまとめてるから、運ぶの手伝ってもらっても良い?」
「はいっ! 持って行きますね!」

 えんやこりゃーとごみ袋を運び出した千代は、早速派手に転んでいた。大丈夫かしらと微苦笑を浮かべつつ、穂波はふと、一巻と二巻の順番が逆になっている本を見つけ、棚に手を伸ばした。

「……」

 本に触れると、白黒の映像が濁流のように頭に流れ込んでくる。小さな男の子が、母親にこの本を読んでもらっている光景だ。

 掃除を早く終えることができたのも、流れ込んでくる記憶を頼りに、正しい場所へ片付けていったからだ。