「うっ……」

 思い出そうとすると、頭に黒い靄がかかったように痛くなる。椿にもらった名刺など、彼の物から過去の思念を読み取ろうともしたができなかった。なぜなのだろう。

「穂波さん、大丈夫か!?」

 眩暈がしてふらついた穂波を、椿は咄嗟に支えた。椿の胸元に自然と倒れ、もたれかかった。

「すみません、少し眩暈が」
「……」

 椿は何か考える険しい表情を見せた後、穂波を安心させるように笑顔を浮かべた。

「初めてのことばかりで今日は疲れていると思う。部屋まで送るから、今日は早く寝てくれ」
「ありがとうございます、じゃあ今日は早めに休ませていただきますね」




 穂波を部屋に送った後。椿は自室に帰り、ベッドに腰掛けると『違和感』について考え始めた。最初は、本当に穂波が自分のことを忘れてしまったのかと思っていたがなんだか様子がおかしい。

 それに……倒れた穂波に触れた時。未来が視えたのだ。





『ああ、可哀想に……不慮の事故だなんて』






 血の海の中で倒れる穂波を、何者かが嘲笑う姿が。

 氷宮家へ連れ出せたことで穂波を守れると確信していた。けれど穂波が何者かに殺される未来に、このままの状況だとなってしまう。

 穂波の思い出せない記憶とこの未来視が関係しているかはわからないが、未だ油断できない状況ということだ。

「花森たちに調べさせるか……藤堂家について」

 顔ははっきりわからなかったが女性の声だった。都姫か、その仲間である可能性がまず高い。彼女のことだ、あのまま終わるわけがない。

「穂波さんの家族についてももっと知らないとな」

 穂波の記憶に関する違和感も、彼女の母親や都姫について調べればわかるかもしれない。

 何がなんでも、穂波さんは俺が守ってやると椿は固く拳を握り締めた。