「過保護に囲えばやっていることが白洲家と変わらなくなってしまう。わかるんだが……不安だ。穂波さんを側から離したくなくなる」
「未来を視ることができるあなたでも、不安になるのですね」
「あくまで『その時の条件』で確定している一瞬の未来を視ているだけだ。未来は変動する」

 昔、椿は自分の視る未来を変えることは、絶対にできないと思っていた時期がある。だが、一人の少女との出会いで彼の考えは打ち砕かれた。未来は変えられる。

「お気持ちはわかりますがおっしゃる通り、椿様自身が鳥籠になっては駄目だと思いますよ」
「……善処する」
「眉間の皺をお取りください。聡明で美しいお顔がもったいないですよ。それに穂波様がもう戻られます」

 花森が告げた三秒後。とんとんと控えめに扉を叩く音が聞こえてきた。

 屋敷の微かな音や気配も察知し、未来が視えなくても花森は『予測』できることを椿は知っている。彼はただの執事ではないのだから。だからみすみす涼葉を屋敷に入れることなんてないはずなのだ。