「あなたが、穂波さんね」

 白髪を後ろに一つにまとめた美しい老女は、少し椿に似た顔立ちをしていた。きりっとした凛々しい目、月を宿したような金の瞳なんてそっくりだ。控えめな柄のない、濃い茶色の着物を身に纏っている。

「白洲穂波と申します」
「椿の祖母の、六条文乃(ろくじょうふみの)です。穂波さん、よく来てくれました」

 当主を継ぐ時、椿の名前は氷宮椿と変わったが、他の椿の家族の姓は、六条のままどった。

 手を差し伸べてくる文乃に近寄ると、穂波は恐る恐る、その細い指を握った。色白で細い手だが、あたたかい。桜の香りのような、甘い花の懐かしい匂いがした。

「椿に色恋沙汰がなくて心配していましたが、ずっと想い人が居るのはなんとなくわかっていました。あなたが……椿がずっと探していた女性だったのね」

 会えて嬉しいわと、文乃は柔和に微笑んだ。

「ま、まだその自覚が強くあるかと言ったら、ないというのが正直なところなのですが……これから椿さんや皆さんのことを知って、氷宮家に嫁ぐ覚悟で参りました!」

 対する穂波は緊張のあまり、少し力みながら話してしまい、恥ずかしくて耳がほんのり赤くなってしまった。文乃は目を細めながら、微笑ましそうに穂波を見ている。

「ありがとう。真面目で、しっかりしていそうなお嬢さんね。安心したわ」