もっと色んなことをあの人からは教えてもらいたかったと、椿は残念そうに俯いた。

「私も、時隆様ともっと話してみたかったです」

 思念で視た、時隆が刺された光景は、未だに脳裏に焼きついている。

(あの思念で視た光景は……ううん、忘れよう)

 思念の光景に対して、思うところはあった。本当は、時隆を刺した犯人が、全く見えなかったわけではないからだ。あれは……。

「穂波さん?」
「あっ……すみません、考え事しちゃってました……」

 切り替えなければと、穂波は息を一つ吐くと前を向いて歩き始めた。






 椿の家に着くまでの間も、たくさんの氷宮家の人たちに声をかけられた。みんなあの椿が連れてきた婚約者に、腰が抜けそうになる程驚いては、興味津々な様子だった。

 門扉を抜けてから、本当なら十分ほど歩けば辿り着く家に、四十分ほど時間をかけてようやく辿り着いた。

「こちらが氷宮家の現当主と、その家族が住むことになる屋敷です」