氷宮家。国内三大名家の一つであり、念力を操れる念力者たちの一族だ。

 国の公共事業を請け負い、対応しているのが藤堂家。警察と連携し、国の治安維持の役目を担っているのが鷹泉家。

 国家に仕える二つの家に対し、氷宮家だけは違う家業を生業にしていた。個人や民間企業からの依頼を受け、解決する何でも屋のような仕事だ。

 氷宮家の当主選考にも、こなした依頼の数や内容、顧客からの評価が関わってくる。難易度の高い数多くの依頼を、高評価で達成することが重要だった。

「た、大変です! あの椿様が女性を連れてきました! しかも、左手の薬指に指輪が!」
「な……!! 藤堂家の縁談をお断りすると言っていたのに、誰を連れてきたんだ? 例の藤堂都姫か!?」

 氷宮家には二つの家と違ったもう一つの特徴がある。一族の家が全て、同じ敷地内にある点だ。

「藤堂都姫ではありません。顔も名前もわからず……」
「ううっ……せっかく藤堂都姫との話を破談にすると聞いていたのに、椿様あ!」

 現当主・氷宮椿は、一族内の女性たちの多くを魅了していた。彼の一挙一動に女性たちは喜んだり悲しんだり、翻弄されてしまう。

 そんな椿が、全くこれまで噂にも出なかった女性を連れてきたということで、氷宮一族中が騒ぎとなっている。