「その……嫌だったか?」

 きつい顔立ちで険しい表情の多い椿が、眉尻を落として弱々しげな表情になると、ずきりと胸が痛んでくる。

「……っ、嫌じゃありません。でも今度何か人前ですごいことを言う時は……先に相談してください」

 ぎゅっと着物の裾を握ってくる穂波を、椿はぽかんと見下ろしたが、また今度があるのかと数秒遅れて気づいた。

「もちろんだ」

 女性に対して愛らしいだとか、どうしようもなく好きだとか、そういった感情を椿は穂波と出会うまで持ったことがなかった。やはりこの人は愛らしい。自分が昔出会ったあの女性だと、椿は静かに思った。

「どうしてもあんたを連れて行きたくて、言葉を選んではいられなかったんだ。自分の決断を後悔していたから」
「後悔……?」
「本当は初めて会って俺の探していた女性だと気づいた時から、あの家から連れ出したいと思った。だが、あんたには想い人が居るようだったから……諦めようと決めたんだ」