その後、椿を説得にかかる者はもちろんいたが振り払い……次第に懇願や、罵詈雑言に変わっていく声を背に受けつつ、二人は屋敷から出た。

 都姫は最後まで言葉を発することはなかったが殺意の宿った鋭い目で、穂波の後ろ姿を睨み続けていた。

「!? 穂波さん……!」

 屋敷から出ると、思わず穂波は腰の力が抜けてしまい、がくっとふらついた。今日はずっと気が張り詰めたり、抜けたりの繰り返しだ。

「気が、抜けてしまいました……」

 心臓がばくばくと音を立てて、熱い。とんでもないことをしてしまったと改めて思う。椿に支えられ、腕の中に居た穂波の顔から血の気がさーっと引いていく。

「だって、椿さんがあんなことを突然言うと思わなかったから」

 だが、愛していると告げてきた椿の声と表情を思い出し、また顔がとろけそうなぐらい火が走る。青くなったり、赤くなったり忙しい子だなと思いながら、椿も先ほどの自分の発言を思い出した。照れくさそうに口元を手で覆う。顔に出にくい椿だが、その耳はほんのりと赤に染まっていた。

 道端の真ん中で、照れくさそうに向かい合う男女二人を、行き交う人々は物珍しそうに横目で見ていた。

「よ、嫁にもらうとか、愛しているとか……聞いてません! 本当にびっくりしたんですから!」