だが穂波の人生における『本当の転機』はすぐに訪れることとなる。

 妹と再会した日から二ヶ月後。桜も咲き始めた、三月の終わり。朝から屋敷が慌ただしく、人の話し声や足音が散らばっていた。

 布団から半身起こした穂波が寝起きの目をこすりながら、なんの騒ぎだろうかと考えていると……穂波様!と、勢いよく千代が部屋に飛び込んできた。

 千代は慌ただしい性分ではあるが、こんなにも切羽詰まった様子なのは珍しい。

「千代……どうしたの?」
「穂波様……と、時隆(ときたか)様が今朝方、お亡くなりになられたそうです」
「時隆様が!?」

 藤堂時隆。藤堂家の現当主だ。

 あらゆる分野に対し類稀なる才能を持ち合わせた、一族の誰もが認める存在。病を患っているという話も聞いたことがなく、当主になってからまだ一年。齢も三十の半ばと、今後にも期待がかっていた。

 その時隆がなぜ……。

「自室にて亡くなられている時隆様を、都姫様が発見されたそうです」
「都姫が……?」

 妹の名前が突然出て、穂波は思わず口元を手で覆った。

 この時隆の死が、自身の運命を大きく変えていくことになることを、穂波はまだ知らなかった。