「舞香~、行くわよ~っ」
一階のリビングから、お母さんの声が響いてくる。
「はぁーいっ」
あたしは返事しながら髪を軽くなおし、スクールバッグを持って階段を降りる。

今から居候させてもらう家に、挨拶に行く。
荷物はあとで送ってもらうから、そのまま入学式に行く予定。

その家に近づくたび、少しの不安と期待がつのる。
お母さんの友達のミドリさんは、よく家に来るので知っているけど、その子供はどんな子か全く知らない。
知ってるのは、男の子が四人ってこと…。
小さい頃、何回か遊んだことがあるらしいけど、そんなの当然もう覚えていなかった。
…仲良くできるといいな…。

バタンッ
「着いたわよ~っ」
そんな事を考えていると、もう着いていた。
お母さんが上機嫌で鼻歌を歌いながら車から降りる。

「ミドリーっ、来たわよーっ」
お母さんがインターホンも押さずに、玄関を開けて叫ぶ。
あたしは少し他人のフリをしたくなりながらも、お母さんの隣に立つ。
「はいはーい」
すぐに玄関ではなく、隣の可愛らしいお店から、ミドリさんが出て来た。
この家は、ケーキ屋さんをやっている。
「ミドリ、相変わらずいい匂いねぇ。あ、今日から舞香がお世話になるわねぇ~」
「…よ、よろしくお願いしますっ」
あたしはふかぶかと頭を下げた。
「あっらぁ~、舞香ちゃんみたいな可愛い子なら大歓迎よ~」
「じゃミドリ、頼むわね♪」
「はいよ~」
てなワケでお母さんはそそくさと帰って行った。