横浜山手の宝石魔術師



「とりあえず飲みましょう」


アレクが紫色のとろっとした液体の入ったグラスを朱音に差し出し、朱音は両手でグラスを握りアレクを見ると漆黒の瞳が何故かさっき居た黒い犬と重なって何だか訳がわからないままスムージーに口をつければ、ヨーグルトドリンクをベースに沢山のベリーが入っているようで適度な甘さと酸っぱさが、喉を通す度に朱音の意識を覚めさせていく。

飲み終えてから顔を上げぽかんと自分を見る朱音に、冬真はやっと目が覚めたのだと思って笑いがこみ上げそうだ。


「朱音さんは昨日マンションで起きた火事に巻き込まれたんです。

避難の際に全身水に濡れてすぐに身体を温める必要があったので連れ帰りました」


朱音は慌てて自分の服を見て、可愛らしいパジャマ姿に目線を落としたまま固まっている。


「安心して下さい、知人にお願いして女性二人に来てもらいました。

部屋に運び込んだのは僕たちですが、着替えなどは全て女性がしましたから」


自分の身体を冬真に見られなかったことに心底ほっとして、朱音は昨日起きたことをやっと思い出した。

カーテンを開けて目に飛び込んできた赤い火と黒い煙を理解できず、どこで火事が起きているのかと窓を開ければ、熱風と共に水が一気に入り込んだ。

朱音は慌てていつでもすぐに持ち出せるようにとKEITOの絵や冬真からのプレゼントを入れておいたリュックをキッチンに運び、ゴミ袋の中に入れ袋を何重にもして縛るとその辺にあった服に着替え、昨日持って帰ったままのバッグにスマートフォンを投げ入れると朱音はゴミ袋に入ったリュックを抱えて外に飛び出した。

マンションの廊下は内廊下のため火はわからずに避難階段のドアを開ければ一気に黒い煙が入り込み、朱音はタオルを口に当て上へと逃げたたが屋上のドアは鍵がかかっていて出ることは出来ず、そこには既に二人ほどの人が居てオロオロしていた。

朱音はマンションの下に降りるのは厳しいと思い必死に声を上げて煙でむせながら助けを求め、そしてやっと下から来た消防隊員に助け出されたのだ。

全身濡れてもゴミ袋を放さず、救急隊員に毛布をかけてもらい色々質問に答えているときに冬真が現れ、あんな切羽詰まった顔も、声も、そして自分を見つけ安心した冬真を見ながら朱音はこれは夢なのだと思った。

自分をちゃんと見て欲しかった、本当は大切にされていると感じたかった、まだ自分を覚えていて欲しかった、そんな沢山の身勝手な欲望が見せている夢なのだと。

この洋館で目覚めてやっと現実だとわかった今、ありがとうございます、とお礼を口にすべきなのに声を出すことを躊躇してしまう。