横浜山手の宝石魔術師



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変な音がする。

ぼんやりと目に入ってきたのは古い木の床、そこには冬真からもらったラピスラズリのブローチが無残に壊され転がっている。

そして顔に飛んできたそのぬめっとした何かが額にたれ、その異様な臭いに朱音の意識はしっかりとめざめた。

足と手を紐、口にはタオルで結ばれ、冷たい木の床に朱音は横たわっていた。

目線の先には椅子に座る人が見え、顔を何とか上げれば、テーブルの上で何かを切っているのかギコギコという音が部屋に響きとても異様だ。

朱音は必死に顔を動かし自分がどこにいるのか部屋を見渡せば、古びた洋館の中なのか、窓は板で打ち付けられ、壁紙は色あせて至る所破けている。

すきま風が入ってきて、朱音の顔がひんやりとした。


『起きたのかい』


顔を動かせば、そこにはトミーが笑顔で朱音を見下ろしている。

だが英語なので混乱している朱音には言葉では無く音にしか感じない。

さっきまでカフェにいて、トイレから戻ってしばらくすると異様にフラフラしてきて、洋館に戻ろうとトミーとタクシーに乗った気がするがその後の記憶は無かった。


『もう少しで冬真が来る。それまでに用意しないといけないんだ』


そういうとまた古びた椅子に座り、テーブルの上にあるものを持ち上げ瓶に入れれば、赤い液体がゆっくりと満ちていく。

朱音はそれを見て先ほどの音は猫に何かしているものだと知り、部屋に充満する臭いに吐きそうになる。

そんな時冷たい風が一気に入ってきて朱音がそちらに顔を動かせば、誰かの足が見えた。


『冬真!待っていたよ!』


トミーは立ち上がり、明るい声を上げる。

朱音が顔を必死に上げれば、そこには冬真がスーツ姿で立っていた。


『君が忙しいと聞いていたから、彼女は運んでおいた。

なるほど、道具は用意してあったし君が来ればすぐに降霊術を出来るようになっているんだね。

あぁやっと夢が叶う!』


トミーは自分の手が赤く染まっていることなど気にせず、興奮して冬真の側に歩み寄った。

そんなトミーを無視するかのように冬真は部屋をゆっくりと見渡す。

もちろん床にも目線はいったのに、朱音は冬真の目と表情に凍り付く。

冬真は見渡していてもまるでディナーの材料をただ見ているようで、そこに人間が、朱音がいるなどと微塵も感じなせないほど冬真の表情は動かなかった。