美しい海や夕焼け、知らない場所だけれど、明るくて陽気な街。

 そんなところに行けば、先生の言うように、気分転換になるだろう。

 そう話せば、先生はすぐに「休暇を取れるように提言しましょう」と上司に話してくれた。

 上司も果歩に医務室を紹介したほど、気にかけてくれていたのだ。

 すぐにとはいかないが、しばらくの検討のあと許可が出て、それで果歩には一週間の時間ができた。

 そこからは早かった。

 パスポートは持っていて、期限も切れていなかった。

 だからそのまま使うことにして、用意するのは荷物だけ。

 旅行をするという連絡も、友達や実家の両親くらいだけだった。

 独りで海外に数日行くなんて、と両親、特に母にはだいぶ心配されたけれど、もう連休はもらってしまったのだし、このままここにいるのも意味がない。

 それにハワイは親日だから日本人にも友好的なひとが多いし、危ない場所には絶対に行かない。

 そう話して、約束して、果歩はハワイへ飛び立った。

 いわゆる傷心旅行と言えただろう。

 それがこのような気持ちで帰ってくることになったのは、良かったのか、悪かったのか。

 それでも果歩の気持ちは落ち着いた。

 失恋のショックは上書きされたように消えていた。

 ただ、あのとき会った、きりりとした目元の優しいひとのことを考えると、小さな痛みが湧いてくるのだけが胸の隅に残った。

 今でも時々、思い出してしまう。

 ハワイに渡った直後の出会いや、彼と過ごした短くて、でもとても幸せで濃厚な時間のこと。