本当に、この子を産む選択をして良かった。

 果歩はそんなふうに噛み締める。

 ちゃんと育てられているし、それに果歩にたくさんの幸せをくれるのだ。

 良い想い出と思っていた翔が、贈ってくれたような存在だ。

 そう思うと、より愛おしさはつのって、あの夜の幸せな時間は間違いだったどころか、とても素敵なことだったのだと、幸せな気持ちで思い返すことができるのだった。

 順調に育って、秋になった現在、航は一歳半。

「まま」「ばーば」「じーじ」などとしゃべるようになっていて、その様子は皆を笑顔にするのだった。

 果歩はそろそろマンションなどを借りて、改めて実家を出ようかな、と考えることもあったのだけど、母が引き留めてくるのだ。

「まだ心配だから」とか「なにかあったら困るから」とか。

 でもきっと「航ちゃんと会えなくなったら寂しいわ」。

 そう言ってくれたのが一番の理由なのだろうな、と果歩は察して、苦笑しつつも、これほど息子を愛してもらえることに大きな幸せを覚えて、もうしばらくお言葉に甘えることにしているところだ。