「そう。じゃ、産んであげなさいよ」

 ためらっているうちに、きっぱり言ったのは母だった。

 果歩は驚いて顔を上げる。

 母は、にこにこ、ではないけれど、優しい笑みを浮かべていた。

 慈しんでくれるような色が視線にある。

「せっかく授かった大切な命よ。それに、愛の証でもあるわ」

「……うん」

 母が続けることに、果歩は小さく頷いた。

「子育ては私やお父さんも手伝うわ。なにしろ果歩を立派に育てたんだから、任せなさい。孫だって不自由なく育ててみせるから」

 母の言葉は堂々としていた。

 果歩は目を見開く。

 こんな、不慮の妊娠をしてしまって、叱られたり、呆れられたりするかもしれない、と少々不安に思いつつ訪ねてきたのに、言ってもらえたのはこれだ。

 じん、と胸が熱くなる。

 母がこれほど堂々と言うのは、やはり、果歩がここまでちゃんとした大人に成長できた実績ともいえる事実があるからだ。

 それなら……。

「それに、私もその子に会ってみたいな」

 少し空けてから、母は優しい声で言った。

 その声はもうしっかり『祖母』で、それ以上に果歩のことも大切に想ってくれる言葉だった。

 そう言われて、限界だった。

 ぽたぽたっとテーブルに雫が落ちる。

 ひくっと喉が鳴って、果歩の目からはっきり涙が落ちていった。