「一夜のことと言っても、そのひとのことが好きだったんでしょう?」

 優しく、また、理解のあることを言われて、今度こそ、じわりと熱いものが込み上げる。

 果歩の喉が小さく鳴った。

「……うん」

 なんとかそう言う。

「それに、大事なのはこれからのことじゃない? 果歩はどうしたいの?」

 母に言われて、果歩はお腹の下に力を込めた。

 そうだ、泣いている場合じゃない。

 こうしているうちに、日にちは経っていくのだ。

『どちら』にするか……そして、『辞める』を選ぶならば時間がない。

 でも果歩の想いはほとんど逆に傾きつつあった。

「私は……産みたいと思う……」

 ちょっと途切れてしまったものの、口に出す。

 それでもためらいは取れなかった。

 自分の気持ちはそちらだけど、すぐに断言できない理由はある。

 だって育てていく自信がない。

 子育てだってしたことがないのに、夫婦二人でではなく、シングルマザーになるのは、子育ての重圧が果歩独りにかかってくるということだ。

 初めてのことで、上手くやれるだろうか。

 それに独りで産み、育てるということは、産んだ子を父親なしで育てるということにもなる。

 それは子どものためにも良くないのでは……。

 果歩が悩んでしまっているのは、主にその点だった。